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Rinyo Kobo-The Workshop of “Orin” 響
魔を切り、場を鎮める、美しい音≠フ力をつくる

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魔を切り、場を鎮める力があるとされる、おりんの音。気持ちを整えるために、リラックスタイムやヨガの時に鳴らす人も増えているとか。ちなみに、祗園祭菊水鉾の鉦は、りんよ工房作。

 お盆にご先祖のお仏壇の前で手を合わせる時、チーンと鳴らす「おりん」。京都市の南部、上鳥羽の一角にある「りんよ工房」は、天保14(1843)年の創業、おりん専門の鳴金物工房です。当主の白井克明さんは、この工房の5代目に当たります。

 「おりんは鋳物(いもの)ですから、うちは武骨な鋳物工房です。しかし一方では、おりんの音≠作り込むという、とても繊細な作業をする場所でもあります」

 りんよ工房のおりんの材料となる金属は、「砂張(さはり)」とよばれる錫(すず)と銅の合金。その歴史は古く、紀元前3000年〜2500年頃のインダス文明ハラッパ遺跡から出土しています。砂張(ぎょぶつ)はやがてアジア各地に伝播し、わが国では正倉院の御物にも。以来、日本において砂張は、おりんや茶道具として独自の発展を遂げてきました。

 工房に展示されている砂張のおりんを鳴らしてみると、その音は伸びやかに澄んで響き、倍音のうねりを重ねながら、えもいわれぬ美しい残響の中に心地よく溶けていきます。複数のおりんを聞き比べてみると、音の高さも響き方もそれぞれ異なり、同じものは二つとありません。「砂張に使用する錫の純度(いがた)は99・9%。わずか0・1%の微量元素は産地で変わり、何の元素を含むかによって音が変わります。鋳型に使う土の良し悪しすら音に影響するほど、繊細。しかし、おりんの音を左右しているのは、素材というよりも技法なんです」と語る白井さんに工房を案内していただくと、鋳型を作る型場、溶かした砂張を鋳型に流し込んで成形する鋳物場、型から外した鋳物を熱処理してろくろに掛ける加工場に分かれていて、その工程数は何と180にも及ぶのだとか。

 その中で、特に音≠作り込むのに重要な工程とは?

 「それはもう、全部ですわ。数千年前から伝わってきたものに、先祖代々が試行錯誤を重ねて、砂張の力を最大限発揮させるためにはこれだけの工数がかかる、というところに行き着いているんです。私も若い頃は『何でこんな作業が要るんや』と思いましたが、そこを端折(はしょ)ると、やっぱり鳴らんのです」。中には理屈の分からない工程もたくさんあるそうで、例えば100%新しい地金(じがね)ではなく、必ず3分の2は鋳型に残った古い地金を混ぜることで、より鳴る≠ィりんができるとのこと。理屈を超えた経験と技の蓄積こそが、この工房が誇る唯一無二の音≠フ個性を生み出しています。

鋳型を焼成する窯の扉には、さまざまな数値がびっしりと。りんよ工房のノウハウの一端です。

鋳型を焼成する窯の扉には、さまざまな数値がびっしりと。りんよ工房のノウハウの一端です。

鋳型に使うのは、山土に籾殻を混ぜたもの。この土の成分も、音に影響します。

鋳型に使うのは、山土に籾殻を混ぜたもの。この土の成分も、音に影響します。

ろくろに掛けて表面を加工。一鑿(ひとのみ)ごとに変わる音を確かめながら。

ろくろに掛けて表面を加工。一鑿(ひとのみ)ごとに変わる音を確かめながら。

焼成された鋳型に溶解した砂張を注ぐ、緊張の一瞬。鋳型と金属が冷却していく時間経過の中でも、音は変化していきます。

焼成された鋳型に溶解した砂張を注ぐ、緊張の一瞬。鋳型と金属が冷却していく時間経過の中でも、音は変化していきます。

 

有限会社りんよ工房 五代目 白井 克明さん(中左)六代目襲名予定の亮助さん(左)若手職人の西村さん(右)小谷さん(中右)

有限会社りんよ工房 五代目 白井 克明さん(中左)六代目襲名予定の亮助さん(左)若手職人の西村さん(右)小谷さん(中右)

白井さんのもとで、若い職人さんたちも日々おりん作りに精を出しています。「彼女たちは楽器演奏経験者で、耳が良い。検品の際、私には聞き取れない高周波の“揺れ”を指摘してくれることもあります」

おりんの技術を応用したオーダーメイド自転車ベル「白井ベル」はフランスなど海外でも人気。

おりんの技術を応用したオーダーメイド自転車ベル「白井ベル」はフランスなど海外でも人気。


Information
りんよ工房
京都市南区上鳥羽仏現寺町46-2
TEL:075(691)7479

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