上質な革の質感と丁寧な縫製が、何ともいえない温もりを生む河本商店のランドセル。
さまざまな節目が訪れる春。ピカピカのランドセルを背負った小学生たちが4月の通学路を歩く姿は、見る者の心まで晴れやかにしてくれます。昔と違ってランドセルの色やデザインを自由に選べるようになった昨今、かわいい我が子にとっておきの“オンリーワン”を贈りたくなるのが親心というもの。そんな思いを叶えてくれる鞄職人さんが、西賀茂の住宅街の一角に工房を構えています。
「孫が小学校に上がる少し前、娘から『お父さん、ランドセルって作れる?』と相談されましてね。よし、孫のために一肌脱ごうじゃないか、ということで作り始めたのが製作のきっかけです」と語るのは、「河本商店」の代表を務める河本幸雄さん。鞄作りに携わること50余年になるベテランです。「長年の経験があるとはいえ、ランドセル作りはその時が初めてでした。まず材料集めから始めて、娘が昔使っていた実物を見ながら型紙を作って…試行錯誤の末に完成したランドセルを、孫がすごく喜んでくれたのがうれしくてね」。以後、改良を重ねて納得のいくものにたどり着き、希望する方にオーダーメイドで販売するようになったのだそうです。
河本さんのランドセルは、一つひとつすべて手作り。兵庫県でなめした上質の本牛革を使用したボディを5色から、裏地を11色から選べる「ベーシック」のほか、100種類の革と100種類の裏地を自由に組み合わせて“世界に一つだけ”のオリジナルを作ることができる「セミオーダー」も可能です。パイピングやベルトなどのパーツごとに色を変えるといったオーダーも可能。背中に当たる部分は汚れに強く柔らかい日本製の発泡PVC加工ナイロン素材を使用したり、ショルダーベルトに背負いやすさを追求した曲線のカッティングを施すなど、使用感や耐久性にもこだわった作りです。
「完成品を家族で受け取りに来られると、子どもさんがランドセルを背負って走り回る様子を、親御さんがニコニコと眺めて喜んでくださってね。ランドセル作りが楽しいなと思える最高の瞬間です」と目を細める河本さんが鞄づくりの道に入ったのは、10代の頃、母の内職を手伝ったのが最初なのだとか。以後、独学で貪欲に技術を磨き、創意工夫を凝らした提案力で年間20万本もの鞄を扱うメーカーへと成長を遂げました。「当時は多くの下請け職人を抱え、多数のニーズに合うものを多く作って多く売ることを旨としていました。しかしバブル崩壊後、安価な外国製品が世にあふれるようになり、仕事の姿勢を180度変えたんです。これからは一対一のものづくりをしていこう、と」。以来、型起こしから裁断、縫製まで自ら行う職人気質な工房として再スタートした河本さん。彼にとって「孫のため」に始めたランドセル作りは、まさに究極の「一対一のものづくり」のかたちでした。
家族への思いから生まれた、温もりいっぱいの“用の美”は、一人ひとりの子どもたちの背中に寄り添って成長を見守っていきます。
ボディと裏地を自由にコーディネート。パーツごとの色変更も可能です。
希少な馬革は、ランドセル1つに1/2頭分が必要だそう。
何十年も愛用してきたミシンで一つひとつ丁寧に縫い上げていきます。
工房の一角で鞄づくり教室を開設し、本気で鞄職人を目指す人材を育成。初心者向けコースもあります。
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