色も図柄もさまざまな半衿、帯揚げ、帯締めのバリエーション。
新年は、初詣や成人式、初釜など、何かと和装姿で臨む機会が増える時季。時候やシーンに合わせて選ぶ着物や帯とともに、帯締や帯揚、半衿、草履などの小物を組み合わせることによって表情を変えられるのも、和装の楽しみの一つです。
「昔は半衿一つで着物より高いものもあったんですよ」と話すのは、和装小物卸「衿秀(えりひで)」創業者であり代表取締役の志野稔さん。創業63年と、京都では比較的新しいお店ですが、エネルギッシュな挑戦とアイデアで、時代の変化にも負けずに京の和装文化の可能性と裾野を広げてきました。呉服の町・室町の一角にあるお店には、屋号の由来である半衿のみならず、肌着から草履に至るまで多種多様な和装小物が揃います。それらの多くは自社で企画したオリジナルの商品。例えば半衿なら、元となるデザインの図案を起こし、模様を手描きしていきます。その図案は伝統的な風物だけでなく、クリスマスモチーフや斬新な抽象柄など伝統の枠にはまらないものも多く取り入れています。そんな自由な発想の背景には、世の中が激しく移り変わる中で生き残ってきたお店の来歴があります。
幼少期、父の仕事の都合で海外にいた稔さんは、戦争でその父を亡くし、帰国後は小学5年生の頃から農家で丁稚奉公。その後、衿問屋に住み込みで8年間働き、22歳を目前に独立を決意。二条城の近くの小さな家で半衿の卸業を始めました。
折しも日本が高度成長期に入った頃。戦前は多彩な色や柄があった半衿は、化学繊維の登場とともに状況を一変。安く強いという理由から白の半衿が主流になり、色半衿が売れなくなってしまいました。「このままでは衿屋として立ち行かない」と考えた稔さんが、妻とともに試行錯誤を重ねた末に生み出したのが、肌着にファスナーで着脱できる画期的な半衿「ローズカラー」でした。それまでは手縫いで本衿に縫い付けるしかなかった半衿を手軽に楽しめるようになり、一躍、売れ筋商品に。これを皮切りに、半衿から仕立てた刺繍入りの鼻緒、帯地や帯締からつくったバッグなど、遊び心にあふれた和装小物を創作し続けてきました。「評価はお客さんがしてくれはるから、何でも挑戦してみたらええ」という稔さんの方針のもと、各部門のスタッフが自由な着想でつくった商品を、自分たちで販売できるのも衿秀の強みです。
「私が社員に言うのは、和装小物は単独では成り立たない。着物や帯があってはじめて活きる。合わせ方は何百、何千通り。だから衿秀にはたくさん品物があります。アイデアを出す、デザインする、それを形にする、それぞれが自分の持ち味を発揮してみんなでもの創り集団になろう、ということ。これからもお客さんに喜んでいただき、和装をもっと楽しんでもらいたいですね」
ホースヘアから作ったバッグと、お揃いの鼻緒。草履台は好みのものを自由に組み合わせられます。
熟練の職人が一つひとつ筆で手描きするワイン柄の半衿の図案。
半衿をファスナーで取り付けられる「ローズカラー」は、お手持ちの襦袢への加工も可。
鼻緒をすげる職人さんは、この道54年の大御所。
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