湯どうふの順正
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Obakusan Mampukuji
異国情緒漂う境内に走る神、韋駄天さんの勇姿。
鑑蓮会

凛々しい若武者姿の韋駄天さん。今にも走り出しそうな躍動感に満ちた造形は、18世紀初頭、清から招来されたもの。

 2019年のNHK大河ドラマは『いだてん〜東京オリムピック噺(ばなし)〜』。大河としては久々の近現代ドラマで、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを目前に控え、大いに盛り上がる予感がします。この「いだてん」という言葉、足の速い人の譬えとしてよく使われますが、もともとは仏法を守護する天部の神様です。昔、捷疾鬼(しょうしつき)という足の速い魔物が仏舎利を盗んだとき、韋駄天が追いかけて取り返したという説話があります。そんな韋駄天のお姿を間近で拝むことができるのが、京都府宇治市の黄檗山萬福寺。中国・明から日本に渡ってきた隠元禅師によって1661年に開かれた禅宗寺院です。

 「当山は、伽藍(がらん)配置も儀式作法も、隠元禅師が招来された中国明代の様式を守り続けています」と話しながら境内を案内してくださったのは、黄檗宗教学部長の中島知彦(ちげん)さん。入口の総門からして普通のお寺とは違い、まるで竜宮城のような雰囲気です。境内の中央、天王殿は、中国の寺院では玄関に当たるところ。入っていくと、実にふくよかな布袋(ほてい)さんが鎮座しておられます。「布袋さんは唐代に実在したお坊さんで、本来のお名前は釈契此(しゃくかいし)といいます。中国では弥勒菩薩の化身と考えられていて、当山の弥勒菩薩坐像もこのように恰幅のいいお姿で現されています」。その弥勒菩薩と背中合わせに祀られているのが、韋駄天。中国風の甲冑(かっちゅう)に身を包み、錫杖(しゃくじょう)をついた凛々しい姿です。衆生を救済する弥勒菩薩が参拝者を迎えるように座っておられるのに対して、お釈迦様を守る護法善神である韋駄天は、本堂である大雄寶殿(だいおうほうでん)の方を向いておられます。「韋駄天が釈尊のために方々を駆け巡って食物を集めたことから、“ご馳走”という言葉が生まれました。日本の禅宗寺院では、厨房に当たる庫裡(くり)に韋駄天を祀るところもあります」。韋駄天、ここでも全力疾走です。ご馳走といえば、中国風の精進料理である普茶料理も隠元禅師が伝えたもの。隠元豆や西瓜、蓮根、筍などの食材も、禅師とともに渡ってきました。現在まで続く日本の食文化ですが、その源流には、このようなエキゾティックな由来もあったのです。

 毎年1月に京都で行われる全国女子駅伝の選手たちも、萬福寺の韋駄天さんにお参りして健闘を誓うとか。選手たちの韋駄天走りにも期待したいところです。

大雄寶殿にずらりと並んだ十八羅漢像

大雄寶殿にずらりと並んだ十八羅漢像。隠元禅師と同時代に活躍した明の仏師・范道生(はんどうせい)の作。異国風の風貌に、強烈な存在感!

天王殿の弥勒菩薩坐像

天王殿の弥勒菩薩坐像。弥勒菩薩といえば、痩身で哲学的な風貌、というイメージですが、ここではこんなに福々しいお姿。

 
連なる伽藍を結ぶ菱形の敷石

連なる伽藍を結ぶ菱形の敷石は龍の背骨を表し、境内全体で巨大な龍の体を体現しているのだそう。中国のお寺ならではの発想です。

 
 

黄檗宗大本山萬福寺執事 黄檗宗教学部長 中島 知彦さん

黄檗宗大本山萬福寺執事 黄檗宗教学部長 中島 知彦さん

「当山は、隠元禅師の故郷にならって、仏様も、建物も、儀式の作法も明代の中国様式です。たとえば般若心経の読み方にしても日本とは全く音が違うので、ご来山時に法要が行われていたら是非耳を傾けてみてください」


Information
黄檗山萬福寺
宇治市五ケ庄三番割34
TEL:0774(32)3900

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