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Sagayoshi 蘇
生み出され、育まれ、伝えていく名物しそ餅

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店内に並ぶ季節の菓子の中でもイチゴ、ぶどう、栗と旬に合わせて中身が変わるフルーツ大福は、しそ餅に並ぶ人気商品。

店内に並ぶ季節の菓子の中でもイチゴ、ぶどう、栗と旬に合わせて中身が変わるフルーツ大福は、しそ餅に並ぶ人気商品。

 初夏の風物詩、梅干し作りに欠かせない赤紫蘇(じそ)。古来、気の巡りをよくする生薬「蘇葉(そよう)」として用いられ、暑い時期に減退しがちな食欲に喝を入れる独特の香気が特長です。そんな赤紫蘇の葉を使った、名物「しそ餅」なる和菓子があると聞き、嵯峨野を訪ねてみました。

 丸太町通に面して建つ和菓子の店『嵯峨嘉(さがよし)』には、休日ともなると朝からお客さんがひっきりなしに訪れます。早い時間に売り切れる季節の和菓子もある中、「看板商品のしそ餅だけは切らさんようにしています」とは二代目当主の島田嘉寛さん。

 こし餡を道明寺餅で包み、塩漬けにした赤紫蘇の葉でぴったりとくるんだしそ餅は、正式名を『しそ餅「梅」』と言います。梅は味のことではなくサイズのことで、「大粒の梅干しと同じくらいの大きさやから」。生菓子としてはやや小ぶりである理由は、その誕生のいきさつにありました。今を遡ること50年前、当時は和菓子の卸業を営んでいた初代の嘉勝さんが、店舗を持つにあたり何か看板商品を作ろうと、赤紫蘇に包まれた寿司をヒントにしそ餅を考案。ご近所さんに食べてもらったところ、意外にもお酒好きの男性からも好評で、「もっと小さく」という求めに応じてこの大きさに。2年後、現在の場所に店を構えて以来、しそ餅「梅」はこの店の看板を担ってきました。

 嘉寛さんが京都の和菓子店での修行を経て店を継いでからは、自家製餡の食感に独自の工夫を凝らし、餅とのバランスを調整。甘さも控え、より洗練された味わいとなりました。気温によって食感が変動しやすい道明寺餅は天候を見ながら水分を調整。「それ以上に気を使うのは赤紫蘇の葉で、発色良く、香り高く、菓子の邪魔をしない薄さが大事なんです」と嘉寛さん。

 時間が経つと香りが失われ、紫蘇の葉が黒くなってしまうので賞味期限は2日間。ここでしか手に入らない、日持ちもしない、繊細な生菓子特有の特別感が、ファンの心をより深く捉えます。

 さて、持ち帰ったしそ餅の箱を開くと、ふわりと立つ紫蘇の香に、思わず深呼吸。常温で頂くと、塩気のある赤紫蘇と餅、あっさりしたこし餡が口中で渾然一体となり、そのバランスの妙に二つ、三つと止まらない美味しさです。残りを冷蔵庫で一晩冷やすと、ややシャキッとした道明寺餅の粒感と冷たい餡、紫蘇の風味のコントラストがよりクリアになり、暑い夏にはいかにも好適。最後に、ご主人が常連さんから聞いたという内緒の食べ方を試してみると…! 生菓子に対して邪道だとは思いながらも、しそ餅の持ち味が生かされたアイデアに膝を打って感嘆。この食べ方はぜひ、店頭で直接お尋ねあれ。

道明寺粉は「粘りを持たせながら、粒々とした食感を残す」ために2種類をブレンドする。

道明寺粉は「粘りを持たせながら、粒々とした食感を残す」ために2種類をブレンドする。

赤紫蘇の葉の中央の太い葉脈は繊細な食感を損ねるため、一枚一枚丁寧に取り除いて使う。

赤紫蘇の葉の中央の太い葉脈は繊細な食感を損ねるため、一枚一枚丁寧に取り除いて使う。

Information
御菓子処 嵯峨嘉
京都市右京区嵯峨広沢御所の内町35-15
TEL 075(872)5218
 

御菓子処 嵯峨嘉 当主 島田 嘉寛さん

御菓子処 嵯峨嘉 当主 島田 嘉寛さん

「しそ餅は通年商品だからこそ、いかに同じ味を安定して作っていくかが難しい。
日々、勉強中です」と嘉寛さん。すでに「後継ぎ宣言」をしてくれているという息子さんは現在小学5年生。50年後、この店の看板商品の物語には、どんな逸話が加わっているのか楽しみです。

しそ餅「梅」は通年販売。何はともあれ、購入した日に新鮮な風味を味わいたい。

しそ餅「梅」は通年販売。何はともあれ、購入した日に新鮮な風味を味わいたい。



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