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Murasakino Gensui 桜
春が来るたび愛でたい紫野に咲く有平糖の桜

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“暖簾の「源水」の字はお父上、襖絵は絵の師匠である赤松 燎画伯から開店時に頂いたもの。「時を経て本領を発揮する」という師の言葉通り、真っ白だった襖が経年で色づき、見事に白鷺が浮かび上がった。

暖簾の「源水」の字はお父上、襖絵は絵の師匠である赤松 燎画伯から開店時に頂いたもの。「時を経て本領を発揮する」という師の言葉通り、真っ白だった襖が経年で色づき、見事に白鷺が浮かび上がった。

 今か今かと花の見頃を待ち遠しく思う気持ちが桜の魅力をより増すように、この時季だけの和菓子の花が京都の春をいっそう味わい深くしてくれます。

 紫野源水の「桜の有平糖(あるへいとう)」もまた、そんな銘品の一つ。ほんのりと桜色に輝く5枚の花びらは奥が透けて見えるほどに薄く透明感があり、優雅な光沢をまとう姿はまるで繊細なガラス細工のようです。造形の美しさを惜しみつつ、そっと口に含み軽く歯を当てると、ペリンと硬質な音と共にすっきりとした飴の風味が広がります。茶席の干菓子としても愛されている品だけに、口中で儚(はかな)く消える上品な甘みが身上です。

 季節ごとにさまざまな種類がある有平糖の中でも、とりわけ人気が高いのが桜の花。上質の白双糖(しろざらとう)と水、少しの水飴を銅鍋で煮詰めて彩色し、熱いうちに練り上げてから細工を施します。製法はシンプルですが、誰にも真似できないのがそのガラス細工のような薄さと艶。「飴は触るほど光沢が無くなりますのでとにかく手早く。手の感覚が覚えているええ温度≠ニ、一瞬で薄く伸ばす技が大事です」とご主人の井上 茂さんは語ります。

 火傷を防ぐための手袋をしていてはこの薄さは出せないため、製造工程はすべて素手で行います。シーズンとなる2月中旬から4月末まで3万個あまりの桜を作る間、指の先は常に低温火傷の状態が続くのだとか。さらに、そばを人が通るだけで風圧で固まってしまうほど繊細な飴の温度管理のため、強い光を発するランプを当てての作業──高い集中力を要するとともに、非常に目を酷使します。最盛期には1日18時間も同じ姿勢で作り続けるといいますから、並大抵の苦労ではありません。そんな過酷さに加え、「飴ができるようになるまで10〜20年はかかる」という事情もあって、志願者は多いものの弟子はとらず、後にも先にもこの技を持つのは井上さんただ一人です。

 お父上の元で修行をされていた時代から作ってきた桜の有平糖は、33歳で独立後に徐々に薄くなり、いつしか今の姿になったとか。「よく『この桜の品種は何?』と尋ねられますが、自分の中の昔ながらの日本の桜≠映したもので、特にモデルはないんです」。花と葉を取り合わせて販売するためか、山桜と言う人もいれば大島桜だと思う人もいるそうです。「お客様が決めてくださればいいですね」。井上さんが咲かせる桜が今年もまた、多くの人の心にそれぞれの桜の思い出を紡いでいきます。

上品な甘さは純度の高い白双糖だからこそ。有平糖の色ごとに鍋を変えて作る。

上品な甘さは純度の高い白双糖だからこそ。有平糖の色ごとに鍋を変えて作る。

有平糖専用のハサミとご主人お手製の桜の花用の木の道具。棒の先端で飴を成形する。

有平糖専用のハサミとご主人お手製の桜の花用の木の道具。棒の先端で飴を成形する。

Information
紫野源水
京都市北区北大路新町下ル
TEL 075(451)8857
 

紫野源水 当主 井上 茂さん

紫野源水 当主 井上 茂さん

銘菓「ときわ木」で知られた二条城『源水』(2018年3月に閉店)で父を師に15年修行した後、1984年に独立。「自分が作りたいお菓子で認めていただけたら嬉しい」。そんな開店時と変わらぬ思いで創作される上生菓子にも定評があります。

桜の有平糖は3〜4月に予約販売。このほか春の時季には、スミレやワラビなどの可憐な草花の有平糖がお目見えします。

桜の有平糖は3〜4月に予約販売。このほか春の時季には、スミレやワラビなどの可憐な草花の有平糖がお目見えします。



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