湯どうふの順正
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Oden Takocho
あざやかな印影の後ろにゆるやかに流れる時間
荒彫り。彫刻刀は、毎朝研いで切れ味を維持。硬い印材から、薄紙をはぐように彫り進めます。

荒彫り。彫刻刀は、毎朝研いで切れ味を維持。硬い印材から、薄紙をはぐように彫り進めます。

春は新入学や就職の季節。人生の大きな節目に、印章を新調される方も多いのではないでしょうか。京都には、多くの文人墨客を輩出してきた歴史があり、江戸時代には庶民にまで印章が普及してきたことから、「京印章」と呼ばれる印章の技術や美意識が培われてきました。前川誠意堂は、京都市中京区で三代にわたって京印章づくりに勤しんでいます。
 
印章づくりの最初の工程は「印稿作成」。印面にどのように文字を入れるか検討して、小さな方眼紙に鉛筆でスケッチしていきます。「文字の曲と直、画数、複数文字の場合は、お互いの文字のバランスや呼応関係。漢字には五千年に及ぶ歴史があり、時代によって書体も変化してきましたから、時代をそろえてデザインすることも大切です」と語るのは、二代目で当主の前川幸夫さん。文字の成り立ちを知ることで、どの線を太くするか、どこにくびれを作るか、といったデザイン上のポイントも見えてくると言います。次に、柘植(つげ)や水牛の角、象牙などの印材の表面を細かいサンドペーパーで整え(印面修正)、印面に朱墨を塗り、乾いたら黒い墨で、印稿を見ながら印面に逆文字を書きます(布字「ふじ」)。左右反転した文字を書くというのは、なんだか頭が混乱してしまいそうですが、「私たちは職人ですから、逆文字はもう頭に入っています」と、三代目の前川創さん。さらりと言ってのけるあたりは、さすがです。そこから朱墨の部分を彫っていきます(荒彫り・仕上げ)。

「やはり最初の印稿づくりがいちばん大切です。お使いになるのは男性か女性か、お仕事に使われるのか、蔵書印や落款などの趣味性の強いものなのか。じっくりとお話を伺ってから制作に取りかかります」。時には印稿作成だけで三〜四日かかることもあるとか。
 
「お子様に実印をプレゼントされる方は、昔から多くいらっしゃいます。見本にと、ご自分の実印をご持参いただいたのを見ると、私の父親が彫ったものだった、ということが時々あります。自分の父親を誇りに思いますし、続けていてよかったと思います」。印章は使っていて痛むとか減るとかいう消耗品ではありませんが、世代をまたいでのリピート受注ということもあるとのこと。そのお客さまのお孫さんの実印は、創さんが彫ることになるのかもしれません。ここでは、時間がとてもゆるやかに流れているように感じられました

彫り上がった印章に朱肉をつけ、捺印。一つの印章につき、最初の捺印は一度だけ。紙から離したときの鮮やかな朱の印影。この感激を味わえるのは、制作者の特権です。

彫り上がった印章に朱肉をつけ、捺印。一つの印章につき、最初の捺印は一度だけ。紙から離したときの鮮やかな朱の印影。この感激を味わえるのは、制作者の特権です。

印材を篆刻台に固定し、布字を行います。朱墨を塗った柘植に、墨で文字を書き、さらに朱墨で修正して、また墨を入れる。何度も重なって、印面が盛り上がることも。

印材を篆刻台に固定し、布字を行います。朱墨を塗った柘植に、墨で文字を書き、さらに朱墨で修正して、また墨を入れる。何度も重なって、印面が盛り上がることも。

印章の設計図、印稿。甲骨文や金文から始まる文字の歴史を熟知し、一点一画の持つ意味を深く理解していなければ、印章のデザインはできません。

印章の設計図、印稿。甲骨文や金文から始まる文字の歴史を熟知し、一点一画の持つ意味を深く理解していなければ、印章のデザインはできません。

 

株式会社前川誠意堂 代表取締役 前川幸夫さん(二代目) 創さん(三代目)

株式会社前川誠意堂 代表取締役 前川幸夫さん(二代目) 創さん(三代目)

多くの受賞歴を持つお二人ですが、平成25年には親子で日展に入選。また、幸夫さんは「五風」、創さんは「峰雲」の号を持ち、京都市内の各所で篆刻教室を主宰。あえて別の社中で、お互いに切磋琢磨しているとか。

入場券の裏には、無鄰菴をもっと楽しむことができる豆知識が記載されています。

Information
前川誠意堂
中京区押小路通御幸町東入山本町406
TEL:075(231)0480

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