緑豊かな庭園から望む主屋。3階の望楼が景観のアクセントにもなっています。
7月には御手洗祭、8月には矢取りの神事、と夏の行事で賑わう下鴨神社の南、閑静な一角に佇む旧三井家下鴨別邸。その名の通り豪商として名を馳せた三井家がかつて所有していた名建築で、戦後は国に譲渡され、昭和
26年から平成19年まで京都家庭裁判所の所長宿舎として使われていたそうです。その後、歴史的価値の高さから平成23年に重要文化財に指定。4年の修復期間を経て、平成28年の秋から一般公開されるようになりました。
今回、案内してくださったのは、マネージャーの出口正弘さん。「この別邸は、明治42年に三井家の祖霊社である顕名霊社(あきなれいしゃ)が付近に遷座されたのを機に建てられたものです。参拝に訪れる一族や関係者の休憩所として使われていました。建築年代の異なる3つの建物で構成されていて、中心となる主屋(主屋)は明治13年建築の木屋町別邸を大正14年に移築したもの。また玄関棟も、同じ年に増築しています。茶室(非公開)は江戸時代後期のもので、三井家がこの土地を購入する以前からここにあったそうです。江戸・明治・大正、それぞれの時代の日本建築の粋が結集しているのが、この別邸の魅力です」。
玄関棟で概要の説明を受けた後は、いよいよ邸内を見学。主屋1階には茶席として使われていたという開放的な座敷があり、庭園を眺めながら抹茶やコーヒー、冷やしあめなどをいただくこともできます。さらに進むと、江戸後期の絵師・原在正(はらざいせい)による杉戸絵『孔雀牡丹図』が。細密な筆致と美しい色彩に目を奪われます。
主屋は3階建てですが、2階および3階の望楼は特別公開時以外は非公開とのこと。「3畳半ほどの望楼からは、四方を眺めることができます。昨年秋に行われた一般公開時には、2時間半待ちの行列ができるほどの人気でした」と出口さん。
奢侈を禁じたという三井家の家憲を反映してか、邸内は一見簡素な佇まいにも見えます。しかし庭に面してはめ込まれた大正ガラスや、一枚板の壁、襖をはめこんだ壁紙など、随所に贅沢なこだわりが垣間見えます。
「これから旧三井家下鴨別邸は、一般公開後初めての夏を迎えます。庭園の緑が一年で最も鮮やかになる季節を、ぜひ楽しみにしていてください」。
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「8月10日から27日には、通常は非公開の主屋2階を特別に公開します。三井家がご家族の休憩所としていたプライベートな空間で、豪商の気分を味わっていただければ幸いです」
座敷では庭園を眺めながら抹茶とお菓子などをいただけます。
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