菊水鉾のお茶席にて、毎年色違いの景徳鎮のお皿で供される「したたり」。
七月に入ると、京の街のそこかしこで響き始めるコンコンチキチン コンチキチンの祇園囃子。待ちに待った祇園祭の到来です。四条通り界隈に絢爛豪華な山鉾が立つ頃は、ちょうど梅雨明け前の蒸し暑さもピーク。そんな時にひととき涼やかな癒しの時を過ごせる場所が、鉾町のただ中にあります。それは、菊水鉾のお茶席。
菊水鉾は、かつて町内にあった井戸「菊水の井」にちなんだ鉾で、菊の露を飲んで不老長寿となった能楽の曲目『菊慈童』に由来する稚児人形が祀られます。元治元年(一八六四)の兵火で焼失の憂き目に遭うも、昭和二八年(一九五三)に町衆の熱意によって見事再建。その際、町内にあった金剛能楽堂に茶席を設け、訪問者をもてなすようになったのだそうです。後に能楽堂は移転しましたが、お茶席は鉾会所で今も受け継がれています。
そのお茶席で供されるのが、透き通った琥珀色のお菓子『したたり』。亀廣永二代目、西井新太郎さんが、菊水鉾のお茶席のために作った銘菓です。
「菊水鉾のお茶席でお出しするお菓子を作らへんか、とお声掛けいただいて、作らせてもらったのが始まりです。菊の露の雫をイメージして、ふっと頭に浮かんだのがこのお菓子でした」と語る西井さんは、一切れのしたたりをお皿に取り分け、愛おしそうに眺めながら語ります。「普通、寒天のお菓子はこんな風にふるふると柔らかく揺れません。この配合にたどり着くまで、それはもう何年も何年も、試行錯誤を繰り返しました」。
口に運んだ瞬間、ひんやり滑らかな口当たりが実に心地よく、黒砂糖を使っていながら雑味の一切ない上品な甘みが涼やかに広がります。「その秘密は、ええ材料を使(つこ)てるからです。沖縄産の黒糖、阿波産の最高級の和三盆、質のいいざらめ、コシの強い丹波の糸寒天。こういうシンプルなお菓子やからこそ、材料にはこだわらなあきませんね」。
当初はお茶席で出すのみでしたが、年を重ねるごとにファンが増え、今では一年を通してお店での購入が可能に。「したたりは、鉾町の皆さんと、お客さんに育ててもらったお菓子です。お客さんに喜んでいただけることが私にとって何よりの喜び。ほんまに幸せな仕事やと思(おも)てます」。
町衆の想いがこもった、祇園祭の味わいを、ぜひ一度召し上がれ。
町内に古くからあった井戸「菊水の井」にちなんで名付けられた菊水鉾。鉾頭には金色の透かし彫の菊花が。
Information
亀廣永
京都市中京区高倉通蛸薬師上ル和久屋町359
TEL:075(221)5965
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「すべて家族だけで手作りしているものですから、祇園祭の間は寝る暇もないぐらいの忙しさ。でもお菓子作りが辛いと思ったことは一度もありません」。したたりをお買い求めの場合、6〜8月は予約がおすすめです。
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