『魔鏡(まきょう)』をご存知でしょうか。
魔鏡とは、禍々しいものが映し出す鏡ではなく、光を反射させると反射光に像が浮かぶ鏡のこと。邪馬台国の卑弥呼が使用していた三角縁神獣鏡も、魔鏡だったと考えられています。
「鏡の裏面に作った凹凸が、鏡面を磨くことで反射光に出現する"魔鏡現象"を意図的にコントロールしたのが、魔鏡です。一度途絶えた技術が、祖父により息を吹き返し、今ではうちが日本で唯一だと思います」。そうお話しいただいたのは、山本合金製作所の鏡師山本晃久さん。平成26年に首相がバチカン訪問でローマ法王に贈った魔鏡は、山本さん親子が依頼を受け、製作したものだそうです。
「魔鏡製作の工程は、大きく分けて3つ。鋳造、削り、研ぎ。裏に紋様を施し、青銅を鋳型に流し、やすりとセンで削り、砥石で時間をかけて鏡面に仕上げます。21pの魔鏡でも、1日数時間の削りで、2〜3カ月ほど要します」。裏面に作った図柄に魔鏡現象させるために、鏡面を意図する薄さまで研ぎ続ける、気が遠くなるような地道な作業が毎日続くのだそう。
なぜ、鋳造時に薄くしたり、機械を利用して研磨しないのか、という素人の疑問に、山本さんは「強度や品質に問題が出るんです。魔鏡は、鏡面がくもれば研磨し、使い続けられていくものです。ある程度表面が研磨されても強度を保つように納めなければなりません。これが、試行錯誤の結果です」と笑顔の返答。
鏡面を磨きながら、裏面の凹凸が作用するわずかな"あたり"を指の腹に感じるまで、とにかく美しく磨く。薄過ぎても、厚過ぎてもいけない。山本さんはこの道、約20年。しかし、まだ一人前だと思えない、とご本人は言います。
「昔は分業でやっていた工程を、一人で担っています。1工程10年と考えると、一人前まで30年。これからまだ見ぬ、もっと良い物が作れるはず。自分への期待も込めて」。 |
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「隠れキリシタンが信仰のために、魔鏡を利用したのがよく知られています。隠れる必要がなくなった昨今では、寺社からの依頼が主です」と語りながらも、新たなマーケットの創出も構想中の様子。
鏡の裏面施されレリーフ、それを隠すための裏蓋。
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