向かって右に男雛を、左に女雛を飾るのは、京都独特の雛飾りの伝統(南禅寺順正)
弥生三月三日は桃の節句。京都では男雛を向かって右、女雛を向かって左に配置するのはお聞き覚えがある方も多いのですが、四月に入っても雛人形が飾られていると驚く方がいらっしゃいます。その理由は、旧暦で節句を祝う風習が残っているから。そんな京都ならではの雛祭りの風景に欠かせない、京菓子『引千切(ひちぎり)』が今回の主役です。
訪れた二条駿河屋は、室町時代中期創業の羊羹(ようかん)の老舗、総本家駿河屋から昭和2年にのれん分けする形で創業した和菓子店。現在は二代目である店主の甲和憙さんがその看板を守り、日々、店の奥の工房で和菓子作りに腕をふるっています。
丸みを帯びた生地に可愛い角を生やしたような姿が特徴的な引千切。これは、平安時代の宮中で行われていた『戴餅(いただきもち)』に由来する形なと「今みたいに砂糖が自由に手に入らなかった時代、お餅は大変な貴重品でした。だからお祝いごとがあるとお餅を神仏に供えて、お下がりを小さく引きちぎってみんなで分かち合ったと。その名残が、今の引千切の形として残ってるんやろね。昔はお餅に餡玉を乗せる程度やったと思いますけど、今は土台を『こなし』で作って、見た目にもきれいなお菓子に仕上げます」。
『こなし』の生地の端をチョンと千切って餡玉を置き、瑞々しいきんとんを乗せて作る二条駿河屋の引千切は3種。桃色の生地には丹波大納言小豆のつぶ餡、白い生地には白小豆のつぶ餡、よもぎの生地には北海道産小豆のこし餡、と中の餡玉の種類も異なっています。黒文字を入れて口へ運ぶと、生地と餡とそれぞれの甘さと食感が重なり合ってほどけ、余韻がさらりと溶けていきます。「うちのお菓子の身上は、抵抗のない甘さ。甘過ぎても、みずくさいのもあきません。何でもそうやと思いますけど、ほどほどというのが何より幸せ。それが神髄と違いますやろか」。
古の雅を宿す甘さが、今年も京に春を届けます。
Information
茶道好菓子 二条駿河屋
京都市中京区二条通新町東入
TEL:075(231)4633
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平成23年、京都府優秀技能者表彰(「現代の名工」)を受章した和菓子の匠。餡へのこだわりはひとしおで、炊き方に加える一手間は『秘密』。お菓子をお求めの際は
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