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-NARUSE- 掘る
春を告げる”筍”を掘り起こす『成瀬農機具』の魂
仏の姿を私たちに見える形にお迎えする仏師、江里康慧

短くなった刃先の長さを調整する「先掛け」の作業。鋼の色でタイミングを見計らい、数キロもの槌を何度も振り下ろす。

京の春の味覚の代表格といえば「筍」でしょう。中でも”白子たけのこ”に代表されるように、食感やわらかく、甘みが際立つ筍が京都では重宝されます。掘り手からすれば、限られた収穫時期に商品価値の高い「朝掘り」を、傷つけずに効率良く収穫することが求められます。それは、地中のやわらかな部分を一息で切断し、掘り上げる作業の連続。筍の品質や掘り手の作業効率を大きく左右するのが、”手の続き”とも言われる道具です。

「年が明けると、修理のため”ホリ”が持ち込まれ始めます」。そう語るのは成瀬農機具株式会社の五代目成瀬隆之さん。”ホリ”とは筍を掘る鍬(くわ)のことで、これが無ければ筍掘りは始まりません。成瀬農機具は、その名の通り、農機具に特化した鍛冶屋さん。製作から修理まで、すべてを行う農具のスペシャリストです。

「京都のさまざまな地域から修理依頼を受けるホリは、形もそれぞれ。竹林ごとに土の性質が違うし、もちろん使い手の皆さんもそれぞれで、掘り方のクセもあり、時期により長さを使い分ける方もいらっしゃいます」。

山城地域なら、土が高湿で地下茎が浅い地表に張っていることから根腐れしやすく、そのためホリ棒が長く柄が短いのが特徴。一方、乾燥気味の洛西の大枝地域は古い地下茎がいつまでも腐らないため、刃先をエグリ太い長い柄をつけています。

「もともとは、土地ごとに農鍛冶がいて、その地域に適した道具が作られていたのでしょう。しかし鍛冶屋が減り、ここ成瀬にその歴史や知恵が集まってきたのかも知れません」。そう語りながら鋼(はがね)を打つ成瀬さんが背を向けた壁には、私たちには用途が想像することもできない道具がびっしり。「歴史の重みを感じながら作業しています」と成瀬さんは笑います。

先代は技術の確かさから、”黄綬褒章”を受けた職人。その技と心意気を受け継ぎ、五代目も1200℃におよぶ炎の前で、玉のような汗をかきながら使い込まれた数キロもの槌(つち)を振るいます。

「地域により形状が違ったり、刃先の減り具合で、使い方やクセを想像できます。でも、実際に現場に同行させてもらったら、さらに改良の余地があることに気づく。先代がよく口にした『魂を込めて打て』の意味が身にしみますよ」。

カキーンと耳を劈(つんざ)く音が響き、火花が飛び散る工房で、先代が袖を通していた作業衣を纏(まと)う五代目。京の筍が美味と喜ばれる背景には、技はもちろん、ホリの使い手までも見つめる「魂」の継承がありました。

 

京都カネブン成瀬農機具株式会社 成瀬 隆之取締役

京都カネブン成瀬農機具株式会社 成瀬 隆之取締役

「ホリの先の摩耗した傷みを加工する『焼入れ』、鋼を足して、ご希望のサイズ(刃幅・長さ)に仕上げる『先掛け』を駆使して修理します。収穫前、中、後、何度も修理依頼をいただく農家の方も。掘り手にはそれだけ重要な道具なんです」

仏の姿を私たちに見える形にお迎えする仏師、江里康慧

続々と修理に持ち込まれるホリ。棒の長さや刃の長さ、反りなど様々な道具。共通点は、使い込まれていること。


美しく、大切に仕舞うための「桐箱」

奥が大枝型で細く湾曲した刃が特徴、手前の山城型は直線的。

Information
京都カネブン 成瀬農機具株式会社
京都市上京区千本通芦山寺上る閻魔前町二
TEL:075(461)0526

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