やわらかな食感のお餅と、口の中でふわりと広がるこし餡のやさしい甘さが、走井餅の真骨頂。
京都で“はちまんさん”といえば、天王山に川を挟んで対峙する、八幡(やわた)市男山の石清水八幡宮。日本三大八幡宮の一社で、9月に執り行われる勅祭石清水祭では、毎年勅使に門前名物『走井餅』が献上されます。
安藤広重の東海道五拾三次に造詣の深い方は、“あれ?”とお思いでしょう。「走井」と言えば、滋賀大津宿で溢れ出す湧水。こんこんと湧き出る走井と大津宿の名物として「走井餅」が描かれています。
「明治43年、六代市郎右衛門の四男によって、大津から名水で名高いここ石清水の麓へ引き継がれました」と語るのは、次期当主井口香苗さん。ほどなくして大津の本家は廃業。直系唯一の走井餅が、やわた走井餅老舗となりました。
清い水の流れのように、走井餅の井口家は、はや十一代。その歴史は、大津で150年、さらに八幡で100年を数え、今でははちまんさんのお参りに欠かせない門前名物です。
「八幡に来てからも、七代、八代…と大津の初代より代を数えているのは、創業は大津という想いがあるからです。この地へ移り、サイズは少し大きくなりましたが、刀の荒身を模した形や、手作業で拵(こしら)える工程、口当たり柔らかくやさしい甘さは変わることがありません」。
声高にはお話しされませんでしたが、味わいに直結する材料選びと製法には相当目を利かせているご様子。
真清水の
走井もちを
二つ食べ
(高浜虚子)
ひと息つく情景が浮かぶ句ですが、走井餅を味わった後では、虚子は三つ目を食べようかと思案したのかも、と疑ってしまうほどの美味しさです。
走井餅は初詣時期には、一日に一万個も用意される人気門前菓子。はちまんさんへお運びの際は、ぜひ、腰を落ち着けて、ついつい手が伸びるやさしい美味を楽しんでみてください。
東海道五拾三次の53番目だった大津宿。絵に描かれたお茶屋さんでは走井餅、その手前に湧き出す水が走井。
Information
やわた走井餅老舗
京都府八幡市八幡高坊19
(石清水八幡宮表参道一ノ鳥居前)
TEL:075(981)0154
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「交通事情が変わり、意を決して大津からこの地へ移ったご先祖の思い、そしてはちまんさんとのご縁を、これからも手を抜くことなく大事にしていきたいですね」。
旅籠の風情を残した店舗は、ゆっくりと腰を落ち着けひとやすみできる空間です。
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