賀茂川のほとり、24ヘクタールにも及ぶ敷地に息づく約1万2000種類・12万本もの植物たち。秋が深まるにつれ、京都府立植物園の広大な園内ではカエデ類やイチョウ、カイノキ、ケヤキ、ニシキギ、フウ、ヌマスギなど多種多様な落葉樹が、まさに錦の織物を織り上げていくように色づいていきます。
「隠れた紅葉の名所?そんなことありません、とっておきの名所です。紅葉になる樹木の種類が、市内の寺社仏閣にも引けを取りませんからね。園内には紅葉の“表銀座”“裏銀座”と名付けたエリアがあって、緑から黄、オレンジ、赤へと移り行く色のグラデーションが重なりあい…それはもう、本当に美しい。京都の街中に居ながらにして、深山幽谷の趣きを味わえます」。そう熱く語ってくださるのは、京都府立植物園名誉園長の松谷茂さん。松谷さんは2006年に府立植物園9代目園長に就任し、ただ見せるだけでないアカデミックな展示を行う一方、見ごろの植物を紹介した手描きの園内マップや土曜のガイドツアーの実施、季節ごとのイベントの開催などを通じて植物園の魅力を発信し続けてこられました。そんな努力が実を結び、当時60万人を切っていた来園者数は2010年の退職時には77万人まで回復。その手腕の鍵となったのは、松谷さんが首尾一貫して掲げてきた“ほんまもんの植物で勝負する”というコンセプトでした。
「お寺の紅葉は、お寺の庭の雰囲気に合うように手を加えられていることがほとんどですが、植物園の紅葉は自然樹形をそのままに見せます。放ったらかすんじゃなくて、生きものとしての“ほんまもんの姿”を見ていただく。ここは“生きた植物の博物館”ですからね。そのために職員は持てる知識と経験を総動員して、担当した植物の顔色を伺いながら日々の栽培・管理をしています。だから楽しみ方がお寺の紅葉とはまた違う。不思議やな、面白いなと思っていただける発見がきっとあるはずです」。
紅葉の時期には、バラやコダチ(木立)ダリア、サルビアなど秋に咲く花々も園内を彩り、艶やかな色彩に満たされる植物園。この秋の休日には “ほんまもんの植物”の魅力を訪ねて園内を散策してみませんか?
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「秋が見頃の植物はもちろんですが、視界を遮る人工構造物が何もない状態で眺められる比叡山の姿も格別です。空気が澄んで空も高い秋、ぜひ植物園に足を伸ばしてみてください。魅力がいっぱいですよ」
松谷名誉園長がおすすめする、植物園から見る比叡山。
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