京には、“お釈迦さんのはなくそ”と揶揄される素朴な美味があります。正確には、花供曽。仏前へお供えする意“花供御(はなくご)”が訛り、現在の表記になったとか。お釈迦さまの入滅を追慕する涅槃会(ねはんえ)で配られるお菓子です。紅葉の美しさで名高い名刹 真如堂では、涅槃図が公開される3月中、おせん処田丸弥で拵えた花供曽が供されます。
「もともと真如堂さんは、正月の鏡餅を細かく割り、お下がりとして花供曽をお配りしていたそうですが、うちが手伝うようになり、今では一年を通して店頭に置かせてもらってます」とご主人の吉田さん。
田丸弥はその昔、丹波で旅籠を営み自家製の菓子で旅人をもてなしていたところ、菓子作りが本業となり、洛北にある千利休ゆかりの大徳寺の旧境内である現在地へ。
「うちの花供曽は、やわらかな味わいですやろ。黒砂糖が掛かってますが、黒砂糖だけやとコクはあるけど甘みにやさしさが欠ける。白砂糖との頃合いの良い調合が、田丸弥の、真如堂さんの花供曽です。色合いも、お釈迦さまの入滅後、草木が枯れたという話になぞらえてます」。
しかし、納得できる黒砂糖に出会うまでは時間を要したと言います。
「これだ、と直感した黒砂糖は沖縄産。味が変わってしもたらあきませんから、安定して仕入れるため、生産者へ掛け合い、直接買い付け。信用してもらうために、最初は高めに払うたかなぁ」と回想して顔をくしゃっと綻(ほころ)ばせるあたり、黒砂糖こそ、いくらでも食べられる軽やかな美味の秘密と見ました。
涅槃会とは、言わばお釈迦さまが仏さまになられた日であり、ご主人は物腰やわらかく、お顔は柔和で、まるでほとけ顔≠ナす。この洛北の地に、何度も足を運ぶ方が多いのは、変わらない美味はもちろん、そんな吉田さんに癒されにいらっしゃっているのかも知れません。

本店は、大正の末頃の町家。今では珍しい、商品をお見せする「見せの間」のある「お店」です。
Information
京のおせん処 田丸弥 本店
京都市北区紫竹東高縄町5番地
TEL:075(491)7371
FAX:075(491)1700
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「看板菓子『白川路』をはじめ、すべてのせんべいが手作業です。「うちは、膨張剤を使わず、卵の力と練り加減だけで膨らませてご提供しています」とのこと」。
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