千年の歴史絵巻が彩る、時代行列で有名な「時代祭」。“本物”であることが、この祭の約束事であることをご存知でしょうか。平安京へ遷都された10月22日に執り行われるこの祭は、専門家たちの綿密な時代考証のもと、衣装や祭具などが京の伝統技術で細やかに再現されています。約2qにもおよぶ8つの時代ごとの行列を眺めれば、形状の違いはあれど、多くの時代で登場する“帽子”があることに気付きます。
「烏帽子は、中世日本の成人男性の日常の帽子だったんです」
そう語るのは、山岡商店の柿元さん。山岡商店は、今や全国に二軒のみとなった烏帽子屋のひとつ。1583年の創業から、京都で被り物を作り続けています。
「冠と烏帽子を総称して、被り物。聖徳太子の冠位十二階の制から、ステイタスシンボルとして定着し、平安時代後期には成人の証として烏帽子が広く一般に広がったようです」とお話しいただいた柿元さんですが、前職はサラリーマン。初めは冠と烏帽子の区別も付かなかったとか。
「先代の横で、何年も商品にならないものを作り続けましてね。一人前として任せてもらえるようになってから、模索しながら少しずつ自分のやり方を完成させました。今では、烏帽子を見るだけで、自分のものかどうか分かります」。
手作業はそのままに道具や行程の見直しなど、より効率の良い作り方にも数多く挑戦したのだと言います。
「でも、結局もと通りになることが多いんです。何百年もの結晶が、今の作り方ですからね」と笑います。
露頂が恥とされた時代の日常の被り物、烏帽子。今では、祭事や神社の神職、能楽や狂言、映画の撮影用など、用途は限定されますが、時代行列を見れば、まさに日本文化に欠けてはならない名脇役。山岡商店の“本物を作り続けること”の歩みは、今年で431年を数えています。 |
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「楔(くさび)を百本以上打ち込む「弓打ち」。大まかな弓形を作るために麻縄を巻き、経験だけを頼りに方向を調整しながら、弓を反らせて形を整えます。これが最も集中しなければならない作業です」。
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