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口伝で復活した下鴨神社の名物「申餅」
口伝で復活した下鴨神社の名物「申餅」

申餅と一緒に「まめ豆茶」もぜひ。煎っただけの黒豆を、地下水で煎れるお茶。神官たちが祭事前に身を清めるときだけに、供されてきたもの。

 生粋の都人(みやこびと)の口から、祭(まつり)という言葉が飛び出せば、それは祇園祭ではなく、葵祭のことを指します。旧暦四月のほぼ一ヶ月間にわたり、平安朝の貴族文化を今に伝える賀茂の祭礼です。応仁の乱により断絶、そして復興、中絶があり今に至る京の歴史に寄り添った祭事として知られますが、途絶え復活したのは祭だけではありません。

 現在の葵祭は五月十五日に華々しい祭列が行われますが、古来は旧暦四月の吉日となる酉(とり)の日が祭日。その前日に当たる申(さる)の日に、神前に御供(ごくう)するお餅がありました。

「一昨年、百四十年ぶりに申餅を復活させることができました。江戸時代の文献『出来斎京土産(できさいきょうみやげ)』に描かれ、都人たちが『葵祭の申餅』と呼び、親しんだお餅です」。そう語るのは、下鴨神社の氏子である宝泉堂のご主人古田さん。申餅は、神の宿る原生林糺の森の中、下鴨神社の鳥居前の茶店『さるや』でのみ宝泉堂が特別に誂(あつら)えています。

 「代々、宮司さんに口伝でのみ伝承されてきた製法にそのまま従い、小豆のゆで汁で餅を搗(つ)き、丹波産の大粒小豆をごろんと入れる。“はねず色”をした小ぶりなサイズで、上品な甘さの素朴な味わいに仕上げています。でも、その素朴が、大変だったんですけどね…」。

 古田さんは経験を積み上げた和菓子屋の職人。最初は口伝えの製法に則りながらも、洗練された技術を駆使して試作したのだと言います。その度に、宮司さんから「もっと素朴に」と声をかけられたのだそう。

 「申餅は、糺の森を有する下鴨神社の名物として復活するもの。ですが、その断絶した期間も変わらず下鴨神社に有り続けた歴史の一部。私は職人として銘菓を目指すのではなく、氏子として、ここにあった名物にあらためて息を吹き込むことだけが役目だと気づいたんです」と古田さん。その結果が、代々口伝されてきた通りの“はねず色”と、素朴ながら京都人に親しまれる由縁の奥ゆかしい甘み。初めて完成した申餅を口にした宮司さんのお顔は、ことのほか大きくゆるんだことでしょう。

 陽が昇るとき、雲が若干赤みがかるひとときがあります。その色彩こそ“はねず色”。生命がはじまるときの色とも表現されます。まさに、下鴨神社に復活するべき歴史の一部として、申餅に託された色だったのかもしれません。

干支面の巳。裏面は明治時代の書物を重ねて形成します。柔らかな印象を醸すお多福や稚児面などには、かな文字の古書を使用するというこだわりも。
粟で搗かれた餅を手早くあんこで包みます。その所作は、目にも止まらぬスピードで、同じ大きさに形成されます。
Information
さるや

京都市左京区下鴨泉川町59明橋休憩処

TEL:090(6914)4300
 

さるや(宝泉堂) ご主人古田泰久さん

さるや(宝泉堂) ご主人古田泰久さん

貴族と縁の深い下鴨神社ですから、口を大きく開けなくても召し上がれるサイズに拵えています。すべてに、下鴨神社の歴史にまつわる意味があるんですよ。



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