北の山々に降る雪の白、街ゆく人々のコートの黒、色に乏しい冬の反動からか、春の京都はさまざまな彩りに包まれます!色彩の季節の到来をまず告げるのが、黄色いジュータンを一面に敷いたような菜の花です。
むかしは、この花をしぼって灯(とも)し油にしたといいますが、「春めいた小さな花を食膳で味わってみたい」と誰が考えたのか…。数十年前から、左京区の松ヶ崎では菜の花をお漬物にするようになりました。
「そう、幼いころ、母が菜の花を育てて菜の花漬けにしていたのを手伝っていたのがはじまりですから、もぉ60年以上にもなります」。春浅い畑で、そう語るのは岩 文夫さん。昨秋10月、岩 さんが毎年のように種をまいた菜の花は、きびしい冬を越えてすくすくと育ち、3月下旬から4月上旬にかけて花を咲かせます。
「菜の花にも早生(わせ)や晩生(おくて)があって、春先に咲く早生では味が無いんです。晩生に二つか三つ花が咲いたところで収穫して、三回ほど洗って塩で揉み、重石をのせて漬け込むんです。年に300から400kgぐらい漬けますねぇ」
さて、気になる食べ方は――
「漬けた菜の花を一本そのまま皿にのせて、食べはる人もありますが…」。春を愛でる風流心よりも食欲が勝る方は、「こまかく刻んで、ご飯といっしょに食べると美味しいです」と岩 さん。
水原秋櫻子の俳句にも、次のような一句があります。
一椀の飯の掟や 花菜漬
あつあつのご飯とともに頬張ると、口のなかに、春らしい“にが味”が香りとともに広がっていきます。これぞ春!
「独特のにが味だけは、出そうと思っても、なかなか出せるものではないですなぁ」。まさに、季節限定の京の味です。
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![岩さき文夫さん](image/im_01.jpg)
![岩さき文夫さん](image/im_name.gif)
「菜の花の育て方、漬け方は、だいたい皆おんなじようなんですけど、微妙に違う。そやから味も、それぞれの家で違ってますなぁ」。
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