冬の美山を駆ける「猪猟」 生きる
自然を守る、猟師と愛犬の絆

 冬、京都の街から北を見れば雪の山。その白い連山のなお向うに、天を突くような杉林が茂る、美山の里があります。静かで美しい銀色の世界、広大な自然の中に、さまざまな生き物が共存していくためには、きびしい“約束”が必要です。イノシシやシカなど、特定の動物が増え過ぎると樹木を食い荒し、山の自然のバランスを崩してしまうことになりかねません。
 そんな豊かな山の自然を守る働きをしているのが、猟師たちです。
 奥さんのふるさと、美山に暮らして28年。青年時代からライフルを手に、山の生命と向き合ってきた岸田義則さんにお話をうかがいました。
 「かつては、一度山に入るとイノシシやシカを一頭撃つというのが普通でした。ところが、近年は二頭、多い時では三頭も出合うことがしばしばになってきました。大切な野生動物も、あまりに増えると害獣として駆除しなければならないんですよ」。
 岸田さんが山へ向う時、いつも、よき相棒となってきたのが猟犬たちです。
 「猟師が“待ち場”と呼ばれるポイントで待っていると、そこへシカを追い込んでくる役割をしているのが猟犬です。よい猟犬は、『ここで待ってるぞ』と声をかけてやると、山を駈けてその場所へ、必ずと言ってよいほど獲物を追い込んで来ます。また、待っている猟師の方も、真っ白な雪山の中で愛犬の声を聞くと、追っている獲物がイノシシかシカか、雄か雌か、その大きさまで分かってくるようになるんですよ。愛情を注いでしつけていくと、お互いに言葉を交わすことは出来なくても、信頼の絆で結ばれるようになるんですよ。猟がうまくいくかどうか、八割ぐらいは犬にかかっています」。
 現在、岸田さんが飼っているのはプロットハウンドという犬種の「キロ」。数十頭もの猟犬と共に暮らし、山を駈けてきた岸田さんが大きな信頼を寄せる相棒です。ちょうど、取材にうかがったのはキロが八頭の仔犬を産んだ翌々日。そんな時期にもかかわらず、岸田さんが声をかければ抜群のポーズでツー・ショット! これも信頼の絆のなせる技ですね。
  岸田 義則さん
岸田 義則さん

「犬にもさまざまな個性があります。優秀な親の仔が、よい猟犬に成るとは限りません。よい猟犬というのは、猟師(おやじ)の前を走って勇んで猟にでかける。なかには、猟師の後をおずおず付いて来る駄犬もいるんですよ」。

自然を守る、猟師と愛犬の絆
京都府南丹市美山町


 
自然を守る、猟師と愛犬の絆