お正月の風情は年とともに変ってきましたが、今も愛し続けられているのがお餅。ぷゥ〜とふくらんだお餅にきなこ、砂糖をまぶし、はふぅはふぅと熱さとともに味わう安倍川餅、きなこ餅は、昔ながらのお正月の味です。実は、安倍川餅は縁起のよい食べ物です。徳川家康がある茶店に立ち寄ったところ、砂金が採れる安倍川に見立てて、“金な粉餅”と称して献上されたのが由来と言います。
そんな安倍川餅や和菓子に欠かせないのが、きなこ。きなこの原料は、豆腐、味噌、醤油などと同じく大豆です。堅い大豆を炒り、それを水車の力を遣って粉に碾く粉屋さんの光景は、東山の琵琶湖疏水沿いにかつてはよく見られました。
現在は、宇治市に工場を置く都製粉所が起業したのも、明治二十年代の竣工まもなかった頃の疏水近辺でした。長らく、一般家庭用と和菓子店用と合わせて製造されていた商品に磨きをかけ、京都らしく和菓子店専用に製造されるようになったのは、四代目の菱田博さんからのことです。
「きなこ」といえば、黄色一色だと思っていたら、菱田さんが並べてくれたきなこは彩りもさまざまです。
「淡い青緑色をしたのは、うぐいす餅に使ううぐいす粉。東北地方で採れる青大豆が原料です。黒みがかったのが丹波黒豆のきなこ。皮を剥けばほかの大豆と同じ黄色なんですが、皮に滋養があるので黒みのあるきなこになります。普通の大豆から作るきなこも、大豆の品種によって黄、紫、黒とさまざまです」。
和菓子の本場、京都の老舗を相手にしてきた菱田さん。きなこへの想いは熱く、「きなこは品質の良し悪しがすぐに分かってしまう食品です。それでいて、主張しすぎる存在であってもいけません。国産大豆をきめ細やかに碾くことに、いつも、こだわり続けています」。
そんな父、博さんの情熱を受け継いだ長男・太郎さんが働くのは、まさに熱い釜場。夏には四十度を超えるという釜の前で、炒り上がるきなこをジッと見守っています。約一時間、大きな釜の中で大豆が炒られていく工場には、香ばしい伝統の匂いが漂っています。
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![都製粉所 菱田 博さん](image/im_01.jpg)
![都製粉所 菱田 博さん](image/im_name.gif)
「私は趣味がほとんど無くて、ゴルフをたまにするくらいですね」と語る。余暇を楽しむよりも、身を粉にしてマメに働く、といったところでしょうか…。 |