京都の街を歩く楽しみは、思いも寄らない“出会い”が待っていること。ときには数百年の歳月を超えて、「この世のものとは思えない…」出会いも。お訪ねしたのは寺町の行願寺。京の人々には「革堂」と親しまれている、西国第十九番札所のお寺です。
  「このお寺は千年の歴史があり、西国三十三箇所中、唯一の尼寺でございます!」と、元気な声で迎えてくださったのは寺守の中川秀海尼さん。おんとし80歳でご住職の留守をしっかりと守ってはります。
  「当寺には『幽霊の絵馬』というのがございまして…」。秀海尼さんの元気なお声と、幽霊という言葉がピッタリこない気もしますが〜。「この幽霊は、お文さんという十二か十三歳の娘さんで、この界隈の質屋さんに子守り奉公をしてたんです。毎日、子守りをしながら革堂のお庭に来ては、お経やご詠歌を知らず知らず口ずさんでたんです。ところが、質屋の主人の弥左衛門という人は、信心というものがまるで無い人で、お文さんがお経やご詠歌を唱えるのが気に入らない。そのうち、お文さんが背負って守りをしていた赤ん坊まで片言のご詠歌を上げるようになったものやから、殺すつもりは無かったんでしょうが、折檻をしていて、お文さんを死なせてしまったんです。お文さんの両親が訪ねて来ても『逃げ出した』とごまかしてたのが、ある夜、お文の幽霊が両親の枕元に立って、自分が殺されたことを告げたといいます。娘の死を哀れんだ両親が絵馬に、鏡を添えて、革堂に奉納したのが今に伝わる幽霊絵馬でございます」。
  怪談というよりも哀しい物語。秀海尼さんが「お文さん」と語ると、幼馴染みかいなぁ〜と思いますが、もちろん彼女は江戸時代の娘です。
  今回は、秀海尼さんのハツラツとしたお顔を掲載したいところですが、「修行中の身ですから」とおくゆかしいお返事。代わりに、幽かながらお文さんに登場いただきました。毎年恒例の「幽霊絵馬供養」が8月21日から23日まで行なわれます。今年はぜひ革堂に足を運んで、お二人にじかに会ってみてください。
 


 

革堂行願寺
京都市中京区寺町通竹屋町上ル
行願寺町17番地
TEL 075(211)2770