今年は四年に一度のサッカーの祭典「2006FIFAワールドカップ」の年。勝負のゆくえに開幕前からファンの熱気が高まっています。―ところで、千四百年にもわたり守り継がれてきた「勝敗を争わない球技」があることをご存じでしょうか? 京都に伝わる蹴鞠です。
  「蹴鞠は仏教伝来のころに日本に伝わり、大化の改新(645年)を行なった中大兄皇子と藤原鎌足も蹴鞠をきっかけとして親密になられたと言われています。平安時代から江戸時代にかけては、蹴鞠と和歌が公家の素養とされていました。和歌が歌道、蹴鞠は鞠道、歌鞠両道を兼ね備えた人が立派な公家とされたのです」と、教えてくださったのは蹴鞠保存会の理事長・大西康義さんです。古代の中国やローマ帝国にも球技はあったといいますが、”道“として極めたのは蹴鞠ばかり。鞠道を極めた大西さんに近づき難い気品が漂います。「蹴鞠には勝敗というものが全くありません。腰や膝を曲げることなく背筋を伸ばし、端正優雅に蹴るのが良いとされています。蹴鞠は常に蹴りやすい鞠を渡す。それでも相手が蹴り損なった時は当方のミスとする。まさに”和を以て貴し“の国の球技ですね。
  平安時代の公家さながら、蹴鞠保存会の方々が頭に烏帽子、身には水干と葛袴、鞠沓という鞠装束をまとい、正式に蹴鞠を行なう「奉納鞠」「晴会」が一年に幾度か催されます。蹴鞠の家元・飛鳥井家の屋敷跡「白峯神宮」の春季例大祭も「奉納鞠」の一つです。桜の花が風に舞う四月の京都で、公家文化の真髄を楽しんでみませんか。白峯神宮の春季例大祭は毎年四月十四日です。
 


  鞠装束の上衣は生糸使用の紗や絽の織物、下衣は静岡県・掛川で採れる葛を裂いた繊維を用います。鞠の素材は雌鹿の脇腹の皮です。

 

白峯神宮
京都市上京区今出川通り堀川東入る
飛鳥井町261番地
TEL 075(441)3810