今年の大河ドラマ『功名が辻』の主人公として話題の、山内一豊の妻・千代。彼女は色彩感覚に優れた一面を持ち、色美しいさまざまな端切を綴って着物を作るのが趣味だったとか。そんなところから、原作者の司馬遼太郎は「千代紙は、千代の名から来ているのかもしれない―」と語っています。
  そんな楽しい推理に、つい、うなずきたくなるのが本能寺の門前にある「鳩居堂」の風景です。情趣溢れる模様の千代紙、大判の友禅紙、千代紙を綺麗に張り合わせた文箱などが並び、千代ならずとも、きっと多くの女性がうっとり見とれそうな、美しい和紙の世界が広がっています。

  「千代紙の語源については諸説あり、千代に八千代にという言葉があるように、鶴や亀のおめでたい模様の紙というところから”千代紙“と呼ばれるようになったとも言います」。そう教えてくださったのは、鳩居堂企画室の西田文則さん。粋な和紙製の名刺入れから出された西田さんの名刺も、手漉きの和紙でした。
  西田さんによると「現在、鳩居堂は十一代目です。紙を商うようになったのは四代目からで、沈香や白檀などのお香、唐筆、唐墨も、その当時から商うようになりました。学者で詩人としても知られる頼山陽の指導を受け、筆墨の改良にあたったのも四代目・熊谷直恭です。それ以前は漢方薬を商っていたと伝わっています」とのこと。さらに、その昔は、近江国東浅井郡に居城を構える戦国武将だったとか。あれ!? 話題の山内千代のふるさとも、鳩居堂のルーツも同じ近江。不思議な縁は”カミ“のみぞ知る……。
  語源はともかく、ほのぼのと温かみのある和紙、いつの世も女性を魅了しつづける千代紙の美しさに、紙に込められた和の歴史を感じる。それもまた京都を歩く楽しみの一つです。
 


  「仕事を離れた趣味はクラシック音楽です。特に、生誕250年を迎えたモーツァルトが好きです」と語る西田さん。歴史、文化の雰囲気を漂わせる本能寺界隈は、モーツァルトの音楽にぴったりです。

 

鳩居堂
京都市中京区寺町姉小路上ル
下本能寺前町520
TEL 075(231)0510