えェ〜一席おつき合いを願います。賑やかな街の一角に意外な”お宝“が埋もれているというのが、千二百年の都、京都のスゴイところでございます。……あっ、そこの石段にお尻おろしてるギャル、もったいないことしたらかなんなぁ。最近、新京極のこの石段にべたぁ〜と座ってる若い子が増えたけど、後ろを見てみなはれ。京都で一番大きな仏様が門の外からでもよぉ見えてるやろ。ここは浄土宗西山深草派総本山「誓願寺さん」。千三百年前に奈良の飛鳥で開かれて、平安遷都とともに京へ移ってこられた古〜いお寺さんです。代々のご住職がまた偉い。第二十二代が浄土宗を開かれた法然上人、第五十五代が安楽庵策伝上人や。
  なに、『法然上人は知ってるけど策伝上人は知らん』て? どもならんなぁ…。今から四百くらい前に活躍した策伝上人は、紫衣勅許という僧侶としての最高位を戴かれ、茶人、文人としても知られたほかに、笑い話を集めた『醒睡笑』という本を編まれたところから「落語の祖」と仰がれる高僧。最後に”オチ“を付けたご法話が上手やったそうな。最近、落語の世界がトレンディードラマや映画になったり、この九月十五日に大阪でこけら落としを迎える落語専門の定席・天満天神繁盛亭が話題になったりしてまっしゃろう。その源が策伝上人なんや。毎年十月初旬に策伝上人の遺徳を偲ぶ「策伝忌」があって、続いて奉納落語会が開かれ、えらい賑わいやねんでぇ。
  さ、仏様を拝んだら境内の扇塚へ。このお寺は謡曲『誓願寺』の舞台になったり、また、落語は扇子であらゆるもんを表現する芸やろ。そやから芸事を精進してる人は誓願寺さんに扇子を納めて芸道上達を祈りはるんや。えっ、なになに? 「扇子一本で笑いを生み出す落語を考えた策伝上人は偉いなぁ〜」てかいな。そうそう、人を和ませる笑いのセンスがあったんや。――おあとがよろしいようで。
 


「誓願寺は『移転三遍火事十遍』という変転をたどりながら現代に伝わってきました。元は三論宗の寺院でしたが、法然上人以降は浄土宗の寺院となりました。江戸時代には現在よりずっと境内が広く、大仏様に詣る人の数も多く、門前には屋台店や見世物小屋がたくさん並んでいました。その賑わいがもとになって、現在の新京極となったのです。昭和四十二年から始まった恒例の奉納落語会は、今年で第四十回を迎えます」

 
     
 

誓願寺
京都市中京区新京極桜之町453
TEL 075(221)0958

※今年の
「策伝忌」は10月9日(月・祝)、
奉納落語会は入場無料です。