かえで、漆、櫨などの紅葉が、京都・東山を美しく染める頃になりました。昔から、都人は季節を告げる自然を巧みに取り入れて暮らしてきました。たとえば、櫨の実から作る和蝋燭もその一つ。全国でも十数軒を数えるばかりとなった和蝋燭の老舗「京都 わた悟」の十代目、和谷篤樹さんを訪ねました。
  「櫨の実で作った蝋を木型に流し込み、さらに幾重にも蝋を塗り重ねて和蝋燭は作っていきます。芯はイ草の髄です。今ではあえて”和蝋燭“という言葉を使いますが、明治になるまで蝋燭といえば、こうゆうものでした。火を付けると、初めの数分間は小さく弱い炎です。しかし、じっくり待っていると…、ゆらゆらと炎が踊りだし、大きく美しい炎になっていきます。自然の植物から作るので炎が呼吸をしているんです」
  静かに燃えながら橙色のオーラを放つ和蝋燭のゆらめく炎は、櫨の葉が紅に染まる秋の景色を思い出させ、いつしか喧噪な時の流れを忘れてしまいます。
  ところが、和谷さんにとっては秋は多忙を極める季節。洛中の五つの本山、全国の末寺からの注文が山積み。その注文に一つ一つ手作りで応えていかなければなりません。
  「ひところは洋蝋燭を使われるお寺様も多かったのですが、今、ふたたび和蝋燭が見直されてきています。本山で使われている蝋燭の炎をご覧になって、『やっぱり和蝋燭を』と注文してくださるんです。忙しい時には朝まで仕事をしています」夜なべ仕事に打ち込む和谷さんにとっては、秋はまさに”夜長“の季節なのです。
  もっと多くの人に和蝋燭の魅力を知ってもらおうと、美しい模様を描いた絵蝋燭が店頭に売られています。その一つを求めて、荘厳な声明のCDを聴きながら、モーツァルトの音楽を聴きながら、あるいは虫の音に耳を傾けながら、蝋燭に火を灯す。いつもの部屋がまるで異なる空間に変わっていくことでしょう。
 


 和谷さんには、ハーモニカの名演奏家という“もう一つの顔”があります。和谷さんが作った蝋燭の灯火に照らされながら、美しいハーモニカの音色をぜひ聴きたいですね。

 
     
 
京都わた悟
京都市下京区七条通西洞院西入南側
TEL 075(371)7690