旧山陰道へと通じる西山連山の麓、京都市西京区大枝西長町。ここは、都を騒がせた酒呑童子が棲んだという伝説の里です。西山も、のどかな昔ばなしの里も、すっかり秋が深まる頃。各家々の農園には真っ赤な冨有柿が熟します。三百本の柿を育てている安井文知さんの「安井農園」もその一つです。
  「柿の栽培には、西か北に山があり、夏から秋にかけて昼夜の気温の差がある場所がええと言います。柿を育てる上では肥料や世話よりも、太陽がずっと大切なんです。日照時間、旱魃、梅雨時の晴れ具合など、甘うて大きい柿が成るのも成らないのもすべて太陽しだいです」。
  農園の柿に咲く雌花、雄花を飛び交って交配してくれるミツバチの活動も、陽が照るか雨が降るかでは大違いなのだそうです。
  「大枝で柿の栽培が始まって七十年余りになりますが、花時、養蜂家からミツバチの巣箱を借りるようになったのは三十年くらい前からです。受粉していると丈夫な柿ができるんです。大きな実を育てるためには”一枝一花“でないとダメです。どの花を落として、どの花を残すか、ミツバチを使うようになってからその選択が自信を持ってできるようになりました」
  安井さんは農園にある三〇〇本の柿の木の発育状態、そして個性をすべて把握しているそうです。
  「”桃栗三年柿八年“と言いますが、三年くらいで花を咲かせる木もあれば、十年経っても花を咲かさん木もあります。『道楽者(どうらくもん)の木やなぁ、いっぺん灸(やいと)すえなあかんなぁ〜』とボヤいてた木が、大きく育って立派な実をたくさん付けてくれることもある。どの木が良くてどの木が悪いとは言えません。周囲の木に陽がよく射すようにと木を一本切ることがあります。そんな時はホンマに辛いです」。
  ”大枝の柿は、霜が降って味が出る“柿農家の人びとの言葉です。十一月中旬、たわわに実った柿の甘さには、太陽の恵みと農家の愛情がギュッとつまっています。
 


 春は花、秋は実と、農園の柿を写真に撮り続けるのが安井さんの楽しみ。まるで、子どもか孫のように愛情をそそぐ安井さん。本誌掲載の柿の実の写真も、安井さんの傑作です。



安井農園
京都市西京区大枝西長町1‐92
TEL 075(331)1683