幽玄な世界に誘う能舞台で、面(おもて)と呼ばれる能面をつけ主役を演じるのが、シテ方と呼ばれる能楽師の人びと。「五流派あるシテ方で、京都に家元があるのはうちの金剛流だけです」雅な着物姿でお話いただいたのは、能楽師 種田道一さん。種田さんは金剛流職分種田家の四代目。子供の時から常に稽古がつきまとう、まわりと違う家庭環境。でも「いずれ自分も能楽師になることに、何の疑問もなかったですね」とおっしゃいます。学生の頃に陶酔し、今も自慢のオーディオで聞くのが趣味だというのがジャズ。「当時京都にもたくさんあったジャズ喫茶で、コーヒー1杯で何時間もねばってました(笑)」。能とジャズに共通点があるのかと思いきや、「即興の中にもリズムやメロディに法則のようなものがあって、それが能楽とどこか似てるんです。だから自然と体が動き出す(笑)」のだそうです。

装束を自らコーディネートすることも多い能楽師。その美的センスには、音楽のみならず他の芸術からインスピレーションを受けることが多いとか。「京都は衣食住の生活すべてに“美しさ”がある。金剛流の装束が“絵”に例えられるのは、京都の美意識が息づいているからでしょうね」。能とは一言でいうと?の問いに「全力でやっても届かないもの。でも自分の演技がちょっとでも人に感動を与えられたら、と思うてやってます。」と答える種田さん。喜怒哀楽を隠す面の裏には、能を心から愛する「素顔」が隠されていました。


   

〈能楽師 種田道一さん プロフィール〉

金剛流職分種田家四代目。
1993年、京都市芸術新人賞を受賞。
1998年、重要無形文化財(総合認定)に指定。
また小学生を対象にした能楽体験教室など、能の普及にも積極的に取り組んでいる。
著書「能と茶の湯」(淡交社)